埼玉県皮膚科医会

文字の大きさ

2013年「皮膚の日」 市民公開講座のご報告

アトピー性皮膚炎と食物アレルギー~違いを知って、スキンケア~

 仲会長のもと、2010年から始めた埼玉県皮膚科医会主催の皮膚の日記念イベントも今年で4回目を迎えました。「しみ、しわと皮膚がん」〜気軽に皮膚科へ行こう〜というテーマで行った初年度は、来場者も100名程でしたが、年々会を重ねる毎に来場者が増えてきました。今年は「皮膚の日−市民公開講座」と名称も改め、11月10日(日)午後1時よりさいたま赤十字病院講堂で「アトピー性皮膚炎と食物アレルギー」〜違いを知ってスキンケア〜というテーマで開催されました。防衛医科大学校皮膚科教授、佐藤貴浩先生による「アトピー性皮膚炎〜皮膚からはじまるアレルギーと痒みの不思議」と社会保険大宮総合病院、梅本尚可先生により「食物アレルギー〜スキンケアでアレルギーを予防しよう」の2演題がありました。佐藤先生からは、アトピー性皮膚炎の皮膚は過敏で痒みの原因が多種多様であり、痛み刺激さえ痒みとして感じ、掻くことをやめるのは難しいと説明がありました。梅本先生は食べる物を皮膚に塗る危険性−例えばピーナッツオイルを皮膚に塗るなど−を充分認識するようにと話されました。両講演ともに大きくうなずく来場者がたくさんいらっしゃいました。

 


皮膚のトラブル相談コーナー

 講演に先がけて、恒例の皮膚のトラブル相談が開かれました。12時過ぎ早々に受付される方もおられ、相談開始を15分繰り上げるなど昨年同様大変盛況で、相談者は58名でした。10代から70代までの方々がさいたま市を中心に県内各所から参加され、相談はアトピー性皮膚炎を中心に爪、毛髪、シミ、薬剤など多岐にわたる内容でした。浦和地区をはじめ、春日部、与野の13名の先生方がボランティアで相談医をして下さり、丁寧かつ迅速に対応しておられました。


「開会の挨拶」

埼玉県皮膚科医会会長・仲皮フ科クリニック院長 仲 弥 先生

 昨年12月に調布市の小学校で起きた痛ましい事故を覚えていますでしょうか? 5年生の女の子が給食を食べた後に、食物アレルギーで亡くなったという事故です。まだ記憶に新しいと思いますので、思い出された方も多いのでなないかと思います。それ以来、食物アレルギーへの関心は高くなりましたが、相変わらず、いろいろな情報が錯綜して、教育の現場は混乱しているようです。先生も父兄もナーバスになり過ぎて、困っているようです。その意味でも、食物アレルギーの正しい知識を得ることは重要です。一般に食物アレルギーというと、口から食べたものが原因でアレルギーが起こると思われがちですが、実は皮膚から入り込んだものが原因で食物アレルギーが起こること、皆さんご存知でしたでしょうか?また、アトピー性皮膚炎は食物アレルギーが原因と思っている方がいまだに多いようですが、本当にそうなのでしょうか?今日はお二人のエキスパートの先生方からお話を伺います。お話をお聞きいただいて、皆様が正しい知識をお持ち帰りいただければ何よりと考えております。


 「アトピー性皮膚炎 皮膚からはじまるアレルギーと痒みの不思議」

防衛医科大学校 皮膚科教授 佐藤貴浩先生

アトピー性皮膚炎のはじまりはアレルギーではない!?

 アトピー性皮膚炎といえば、アレルギー体質がもとで卵や牛乳アレルギーになり、それらを食べることが湿疹の原因になると思っている方が多いかもしれません。実はアトピー性皮膚炎にはアレルギー的な面だけでなく非アレルギー的な面もあり、近年の研究で後者がとても重要であることが明らかになってきました。非アレルギー的な面とはすなわち、肌が乾燥しやすいこと(ドライスキン)、そしてバリア機能が弱いことです。バリア機能が壊れると、ちょっとした刺激でも皮膚が反応して炎症をおこしてしまいます。またこのような皮膚からアレルゲンが侵入すると、皮膚炎だけでなくやがて食物アレルギーやアレルギー性鼻炎などになる危険性が高まることが最近わかってきました。つまり、食物アレルギーがアトピー性皮膚炎の原因なのではなく、皮膚の乾燥とバリア機能低下が原因で食物アレルギーなどになっている可能性があるのです。

アトピー性皮膚炎の痒みはとても複雑

 アトピー性皮膚炎では耐え難い痒みがつきものです。患者さんが搔きつづける様子は見ている方としてもつらいものです。痒みをおこす主な成分はヒスタミンです。そのため痒み止めとして抗ヒスタミン薬が処方されます。ところが飲んでも痒みがピタっと止まることはあまりありません。実はヒスタミン以外にも痒みを起こす物質がたくさんあることが知られています。またアトピー性皮膚炎の患者さんは痒みにとても敏感で、ちょっとした痛み程度の刺激なら“痒い“と感じてしまうことなどもわかってきています。さらに精神的なストレスがかかると、緊張・不安・イライラ解消のために無意識に搔いてしまうという人も見られます。周りでみているとつい”湿疹が悪くなるから搔いてはダメ!“といってしまいがちですが、搔き続けずにはいられない深いワケがあったのです。とはいっても搔けば皮膚のバリアは壊れます。湿疹の炎症を塗り薬で早めに鎮静化させること、そして日常的にスキンケアをしっかり行うことは、今後のアレルギーの予防や痒み対策としてとても大切なのです。

「食物アレルギー~スキンケアでアレルギーを予防しよう」

社会保険大宮総合病院 皮膚科部長 梅本尚可先生

1.アレルギーのはじまり

 人は生まれてすぐは何もアレルギーを持っていません。ある物質に繰り返し曝露されているうちに、その物質を抗原(またはアレルゲン)と認識し、それ以後その抗原に対してアレルギー症状が出現するようになります。ある物質を抗原と認識することを感作とよび、食べて感作が成立すると経口感作、皮膚に接触して感作されると経皮感作といいます。

2.皮膚からはじまる食物アレルギー

 食物アレルギーのはじまりは経口感作と考えられていたため、食事を制限して感作成立を防ぐ試みが長い間行われましたが、厳格な食事制限でも予防はできませんでした。 2000年代になり食物アレルギー発症における経皮感作の関与が指摘されました。日本では加水分解コムギを含んだ茶のしずく石鹸で顔を洗っているうちに小麦に感作され、大勢の人が小麦アレルギーになるという事件がありました。さらに遺伝的な乾燥肌で皮膚のバリアが弱い人はアレルギー性鼻炎、喘息などを合併しやすいことも証明され、経皮感作が皮膚とは関係なさそうなアレルギー疾患にも関わっていることがわかってきました。

3.皮膚のバリア機能

 皮膚には外界から病原体、抗原などの侵入を防ぎ、体内からの水の喪失を防ぐバリア機能が備わっています。経皮感作を予防するにはこのバリア機能が重要です。体表最外層の角層がバリアとして大きな役割を担っており、角層が乾燥してガサガサ剥がれたりヒビ割れるとその機能は低下します。角層は十分に水分を含み柔軟性、伸展性を保たなければなりません。

4.スキンケアで経皮感作を予防しよう

 角質に水分を保持するにはどうすればいいでしょう?まず湿疹を治して下さい。ごく軽い湿疹からも水分はどんどん失われます。湿疹を治さずに保湿剤を塗っても潤いは戻りません。湿疹を治したら、次は保湿剤の外用です。保湿剤の効果的な使用方法はこれからの検討課題ですが、入浴後保湿剤を塗ると角層の水分量は上昇します。また洗浄の仕方も大切で、ゴシゴシ強く擦ったり、石鹸を使いすぎたり、石鹸のすすぎ残しがあると角層を痛めます。

 最後に、湿疹や乾燥でバリア機能の低下した皮膚に食物が接触する危険性を知って下さい。食物そのものだけでなく食物性オイルなど食物成分を含有した石鹸や保湿剤、化粧品が多数流通しています。食物成分のすべてが危険ではないでしょうが、現時点ではどういうものが危険なのかわかりません。自然の物、植物性の物、食べる物はすべて安全だという思い込みは間違いです。


司会(仲先生)

 今日はお二人の先生にお話をしていただきましたが、この講演会を通じて、皆様が皮膚についての正しい知識を少しでも多くお持ちいただけたものと思います。先程のお話にもございましたように、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは別の病気であって、アトピー性皮膚炎のほとんどは食物アレルギーが原因ではないということ、合点していただきましたでしょうか?そして、アトピー性皮膚炎も食物アレルギーも重要なのは皮膚のスキンケアだということ、わかっていただけたと思います。

スキンケア製品の展示と説明

 会場の一角では、今年もメーカー10社より製品展示、紹介があり講演のあいまに大勢の来場者が立ち寄り、メーカーの方々も汗だくで懸命にPRされていました。メーカーの人から「一般の方々の生の声をこんなに聞くことができてすごくよかった」との声もありました。メーカー9社が提供してくださったサンプルのお土産も相変わらず大好評でした。最終来場者数は230名でした。リピーターの方々、昨年参加した友人に誘われて参加されたという方もいらっしゃって、私たち皮膚の日委員にとっても、皮膚の日イベントとして広く認識されてきたという手応えを感じる一日でした。次回の皮膚の日市民公開講座は、平成26年11月9日(日)に予定しています。皆様のためになるよう、参加して良かったと思っていただけるように開催したいと思います。(石塚医院・皮膚科 石塚敦子)

このページのトップへ