埼玉県皮膚科医会

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2019年「皮膚の日」市民公開講座のご報告

見逃さないで!皮膚が教える病気のサイン~正しいスキンケア、できてますか?~

ひふの日(11/12:いい皮膚)に合わせ、市民会館うらわで開催された第10回となる市民公開講座。お天気に恵まれ、また天皇、皇后両陛下のパレード「祝賀御列(おんれつ)の儀」も開催された慶賀すべき日でしたが、過去最大級に参加者の多い開催となりました。毎年リピーターの参加者が多い本会ですが、今年は特に地域情報紙やチラシ、当日の会場周辺での案内を見てはじめて参加された方が多く、会場は大変にぎわいました。
講師に二人の先生をお招きしご講演いただきました。
齋藤先生からは日常診療でもよくみられる湿疹・皮膚炎について詳しくご解説いただきました。ふだん患者さんからもよく訊かれる「これって湿疹(皮膚炎)ですか?」「これってアレルギーですか?」といった疑問からスキンケアのコツに対する明快なお答えをご紹介いただきました。
中村先生からは「爪の黒い筋」に代表される爪の色調の変化が見つかった場合、メラノーマやボーエン病を軸にどのようなことに注意すべきか、どのような診療が行われているか、皮膚科医から見ても難しい内容にもかかわらず一般の参加者がわかりやすいよう図表を駆使してご紹介いただきました。
質疑応答も小学5年生の男の子から大人の方まで多くの質問がありました。

 

お肌のトラブル相談

講演に先立ちまして、「お肌のトラブル相談」がさいたま市民会館うらわの1階の会議室で行われ、12時45分から15時20分まで、10名の皮膚科医がご来場の皆様の肌・髪・爪等に関する疑問や質問を受けました。相談者は102人で、相談対象者は 109人(70歳代が最多)でした。相談内容としては講演会のテーマである湿疹と爪の異常についての相談が多かったようです。皮膚科専門医に直接相談に答えてもらえるとあって相談室から会場ホールまで行列が出来るほどの盛況となりました。

「開会の挨拶」

埼玉県皮膚科医会会長・仲皮フ科クリニック院長 仲 弥 先生

皮膚の病気には原因がわからず、なかなか治らないという病気が沢山ありますが、かぶれのように、皮膚の状態を見ただけですぐに原因物質がわかるという病気もあります。例えば湿布薬のかぶれがそうです。湿布を貼った形のまま皮膚が四角く赤く腫れていれば、その湿布が原因と分かりますよね。その場合には、湿布をやめれば治りますし、再発も防げます。でも、その皮膚の腫れが湿布によるものと気が付かないと、いつまでたっても治らないということになってしまいます。ですから、皮膚が出しているサインを見逃さないようにすることが重要です。
また最近は爪のトラブルで受診される方が増加しています。実際、テレビやラジオで「爪が黒くなる癌」について報道されますと、翌日には爪の癌を気にした患者さんが皮膚科に殺到します。でも、実際には爪が黒くなったからといって、みな癌というわけではないんですね。むしろ癌というケースは稀です。最近はいろいろな情報が氾濫していて、何が正しくて何が間違っているのかわからないという方も多いかと思います。自己診断で誤った治療をしたばかりに、重篤な事態を招いてしまったという患者さんもおられます。ですから、皆さんには今日のお話をしっかり聞いて、正しい知識をお持ち帰り頂きたいと思います。

 

「皮膚に痒いブツブツ。これって、アレルギー!?  -湿疹の原因のいろいろ-」

さいたま市立病院皮膚科科長 齋藤 京先生

皮膚という臓器の主な役割はバリア機能です。これがあるから人間は空気の中にいても、体内からの水分の蒸発を防ぎ、外からの様々な物質の侵入を防げます。特に角層形成が重要ですが、これは表皮基底細胞から始まり成長しながら表面に上っていき、丈夫なレンガのような物質に変化して脂質をモルタルのように伴って角層になる、ここまで1か月かかります。
さて、湿疹って何でしょう?これには定義があり、表皮内に炎症によって細胞間浮腫=「海綿状態」を作る反応をいいます。ですから、湿疹は表皮を傷める反応ですので、水疱やびらんを作りますし、治るときにかさついたりします。そして、角層が戻らないと治ったことになりませんので、最低でも1か月しないとバリア機能は戻らない、湿疹はこのくらい時間をかけないと治らないということになります。
湿疹・皮膚炎の原因を考える時、最も重要なのは「バリア機能を作るのを邪魔しているのは何だろう?」という発想であり、実はアレルギーか否かは二の次となります。アレルギーであろうがなかろうが、触ったものや飲んだものが増悪因子であれば避けるのが基本なのは一緒だからです。接触皮膚炎では皮疹の分布が重要で、首ならネックレスや服の襟、乳児のオムツを避けた体幹の湿疹なら、汗や服を増悪因子と疑います。ただし、アレルギーは体質が変わって「ある物質が合わなくなった」現象で、少量の意外なものへ強い反応を生じることもあり「少しなら大丈夫だろう」とか「まさかこんなものにアレルギーはないだろう」は通用せず、アレルギーを念頭に入れる必要はあります。固定疹の例でいえば、原因が飲み物なのに身体の決まった場所だけ強い皮疹を出すといったことがあり得ます。徹底的に避けるのか、ある程度避けるのかが変わってきますので、アレルギーか否かは後で重要となるのです。
スキンケアは「シンプルにほどよく」です。生活をしている以上、完璧なスキンケアはなかなかできません。でも、生活の中の手入れ(基礎化粧や手洗いなど)が過度で刺激になっていたら「ほどほど」に減らすこと、脂質を保つという意味で皮膚を洗うのも「ほどほど」にして、保湿もできる範囲で「ほどよく」行っておく意識がコツになります。そして、バリア復活には時間がかかるので、湿疹が治療で少しよくなっても、すぐに生活をもとに戻さないことがとても重要です。そしてわからない時は、皮膚科に相談しましょう。

「爪に黒い筋。これって、がん!? -爪の病気のいろいろ」

埼玉医科大学国際医療センター皮膚腫瘍科・皮膚科教授 中村泰大先生

ラジオやテレビでの健康番組やインターネットより、私たちは以前にくらべて様々な病気に関する数多くの情報を入手できるようになりました。しかし、信頼できるリソースかどうか不明であったり、あるいは非専門医や医師でない方の科学的根拠のない見解や意見も含まれていたりと、この情報過多の時代に正しい情報を見分けることは決して簡単ではありません。本講演では、爪に黒い筋(爪甲色素線条)が生じた時、実際に皮膚科専門医がどのような考えや根拠に基づいて診療にあたっているかを中心にお話しさせて頂きました。
患者さんに黒い筋(爪甲色素線条)が生じた時に皮膚科専門医ががんを考える場合、主にメラノーマと、有棘細胞癌の上皮内病変であるボーエン病の2つの可能性を想起します。がんを疑う経過・所見としては、①爪甲色素線条が成人になってから生じてきた、②爪甲色素線条の幅がだんだん広くなる、③爪甲色素線条に色調の濃淡がある、④色素線条の先端となる爪先が割れる・あるいは欠ける、⑤爪周囲皮膚にも黒色斑(ハッチンソン徴候)がみられる、⑥色素線条の色調が薄くても角化が目立つ、などです。
たとえ爪甲色素線条ができて、皮膚科専門医にがんと診断されても、多くの場合早期病変です。治療では指の温存も可能で、治療後の生存率もほぼ100%が見込めます。一方で、がんが進行すると爪甲色素線条も進行して爪破壊や腫瘤が生じたりと、形態が変わってしまいます。そこまで進行すると、もはや指趾の温存が難しく切断が必要になるうえに、切断後の再発や転移も心配しなくてはなりません。黒い筋のうちに正しい診断と治療を受けることが、指趾の温存と完治を目指すうえでとても重要です。
このように爪甲色素線条は、がんである可能性をはらんでいますが、実際、本当にがんである頻度は低いものです。特に①複数の爪に色素線条がみられる、②幼児期に爪に色素線状が発生した、③外傷により急に爪が黒色調に変化した、などはがんの可能性が低いと言えます。①は白人に比べてメラニンの色調が濃いために個人差で生理的に爪に色がつくことにより生じます。②の大半は爪の根元に生じた小児期の母斑(ほくろ)による症状であり、辛抱強く経過観察していると20歳くらいまでの間に色調が薄くなる、あるいは消失することが大半です。③は皮膚科専門医の問診や視診により、多くの場合出血による変化と診断されることが多いです。
以上のように、爪甲色素線条、爪の黒色変化は必ずしもがんを疑う所見ばかりではありません。一方で医師と言っても、皮膚科専門医以外の場合、なかなかその所見を正確に診断することは難しいことがあります。爪甲色素線条が生じて、少しでも心配な思いをされているようでしたら、気軽に皮膚科専門医の診察を受けて頂ければと思います。



司会(仲先生)
この講演会を通じて、皆様が皮膚についての正しい知識を少しでも多くお持ちいただけたものと思います。そして皮膚に何か異常を認めましたら、早めに皮膚科を受診していただきたいと思います。

スキンケア製品の展示と説明

協賛いただいている各メーカーの展示には実際の製品が並べられ、講演前や休憩時間に多数の人が立ち寄り興味深そうに説明を聞いておられました。
また、スキンケアサンプルを「おみやげセット」として300組作成しお持ち帰りいただきました。

アンケートでは85%の来場者が「満足」「ほぼ満足」と答えてくださり、非常に来場者の満足度の高い会となりました。本会は今年で記念すべき10回目の開催となりましたが、例年多くの埼玉県皮膚科医会の会員の先生方、協賛いただいている各社の多数のスタッフの方々の協力があって成り立っております。「ひふの日」委員一同、今後も末長くこのイベントが開催できるよう願っております。ご参加いただいた皆様方、本当にありがとうございました。

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