埼玉県皮膚科医会

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2016年「皮膚の日」市民公開講座のご報告

知って得するスキンケア

2016年11月13日(日)に第7回「ひふの日」市民公開講座を「さいたま市民会館うらわ」(さいたま市浦和区)で開催しました。今回は会場を変更しましたので、例年通り皆様方にご来場いただけるか心配でしたが、当日は晴天に恵まれた上、271名というたくさんの皆様方にご来場いただき、大変盛況な会になりました。会場はお二人の先生による熱の入ったご講演と皆様を交えた質疑応答で熱気にあふれていました。ご参加いただいた皆様方、誠にありがとうございました。

お肌のトラブル相談

講演に先立ちまして、「お肌のトラブル相談」が特別ブースで行われ、14名の皮膚科医がご来場の皆様の肌・髪・爪等に関する疑問や質問を受けました。相談された方は81名(13~95歳)と年々増加しています。相談内容としては湿疹・皮膚炎の他に、今回は講演の演題に興味を持って来場された方が多いためか、タコ・ウオノメや巻き爪につての相談が多かったようです。

「開会の挨拶」

埼玉県皮膚科医会会長・仲皮フ科クリニック院長 仲 弥 先生

「小児のアトピー性皮膚炎とスキンケア」

埼玉県立小児医療センター皮膚科医長 玉城善史郎先生

今回は「小児のアトピー性皮膚炎とスキンケア」という演題で講演をさせて頂いた。
スキンケアは、皮膚を健やかに保つ行為であり、具体的には1.皮膚の汗やアレルゲンなどを洗い落とす洗浄、2.皮膚のバリア機能低下を防ぐ保湿、3.紫外線防御の3つからなる。洗浄で大切なことは、泡立てた石鹸を手掌や指腹を使って行い、その後にしっかりと石鹸を洗い流すことである。保湿は乾燥や皮膚バリア機能低下を防ぐために行われ、入浴15分以内に行うことが大切である。一般にはヘパリン類似物質やワセリンが多く用いられる。紫外線防御に対しては、こまめにサンスクリーン剤(日焼け止め)を用いることが大切であり、小児に関しては小児用の紫外線吸収剤不使用の製品を用いて、2~3時間おきに使用することが大切である。
アトピー性皮膚炎は①かゆみを伴う②特徴的な皮疹(主に湿疹)が③左右対称性に特徴的な分布を取り慢性的な経過をとるもの(乳児:2ヶ月以上/その他:6ヶ月以上)とされており、その他に家族でアレルギー性皮膚炎や気管支喘息、アレルギー性鼻炎/結膜炎などのアレルギー素因をもっていると発症しやすいといわれている。アトピー性皮膚炎は乳児では口の周りからはじまり徐々に顔全体に広がり、最後に体幹四肢に拡大する。幼児から学童になる頃には肘窩や膝裏を中心に症状がみられ、乾燥や色素沈着が目立ち、ざらざらした皮膚やゴワゴワした皮膚が目立つようになり、一部では非常に痒みの強い発疹も伴うようになる。治療はまずは前述のスキンケアと軟膏塗布などの外用療法が主体となり、それに内服療法をあわせて使うことが多い。外用療法の基本はステロイド外用薬である。ステロイド外用薬には、成長障害や糖尿病のような全身的な副作用がなく、多くは皮膚のみの副作用があるが、種類によって強さが5段階あることや、体の部位によって吸収量が違うことを知って使用することで多くの副作用は防げる。大切なことはむやみにステロイドを恐れず、症状に応じて使い分けることであり、症状が強い場合は、やや強めのステロイド外用をたっぷりと塗布し、症状が落ち着いてきたら徐々に弱めのステロイドに切り替える。また、外用薬にはその他にタクロリムス軟膏(プロトピック軟膏®)や亜鉛華単軟膏(サトウザルベ)などがあり、特徴を知ることでより皮膚の副作用を減らすことができる。また、内服薬は主に外用薬と一緒に使用し、眠気などの副作用の少ないタイプの抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)が用いられることが多い。また近年、アトピー素因をもつ新生児に対してスキンケアを行うでアトピー性皮膚炎の発症を減らすことができるとの報告があるため、早期からのスキンケアが重要であると考えられている。

「皮膚が知らせる内臓の病気」

自治医科大学付属さいたま医療センター皮膚科教授 出光俊郎先生

皮膚は内臓の鏡といいますが、皮膚や口腔は外界に接しており、目で見ることができます。ここでは内臓が知らせる皮膚の症状(デルマドローム)と内臓疾患を表す口腔粘膜症状(オラ・ドローム)を中心にお話しさせていただきます。なんと意外かもしれませんが、内臓や心の状態は口腔粘膜や皮膚に如実に現れるのです。
はじめに全身疾患に関連する口腔粘膜症状(オラ・ドローム)を解説します。Oral Medicine (口腔内科学)+Syndrom(症候)からオラ・ドローム(Ora・drome)と名付けられました。昔から漢方医学には舌診といって、舌の状態で体調や体質を判断する手法がある。栄養がわるいと舌炎が起きることが知られていますが、全身の病気が口腔にあらわれることがあります。赤く平らな舌をきたすのは鉄や亜鉛の欠乏、ビタミンB12欠乏症などですが、味覚の変調もきたします。こうした変化は爪にもきます。爪がそりかえってスプーン状になったり(鉄欠乏性貧血)、爪の色が白くなったりもします(低タンパク血症)。また、口内炎から炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)がみつかったり、皮膚や粘膜の水ぶくれから悪性腫瘍(がん)が発見されることがあります(粘膜類天疱瘡や腫瘍随伴性天疱瘡)。口腔カンジダ症は口が白くなるかびによる病気です。抵抗力がなくなり、カビが異常繁殖をきたしますので、免疫不全、エイズを疑わせる場合もあります。口腔は面積こそ小さいのですが、声を出したり、物を食べたり、呼吸もしたり、非常に重要な器官であり、様々な不快な自覚症状の出やすい特徴があります。ちょっとした口内炎(口腔アフタ)の痛みでも活力や作業意欲をかなり低下させます。また、歯周病から動脈硬化、脳梗塞との関連もわかってきました。口腔は早期に自覚症状が出やすいともいえますので、内臓疾患の早期発見につながる可能性があります。
次に内臓が知らせる皮膚の症状(デルマドローム)についてお話します。これはDermatology(皮膚科)とSyndrome(症候)を併せた造語です。皮膚の症状から内臓病がわかると言うものです。血管の老化は寿命に関係しているといわれますが、心筋梗塞と耳たぶのしわの関連についてはみなさん驚くと思われます。これはフランクの徴候(サイン)といって、耳たぶにしわができる人は心筋梗塞の確率が高いとされます。おへそのじくじくはシスター ジョセフ(発見した看護師の名前)の結節といって、おなかの大腸癌や膵臓癌などがおへそにでてくることもあります。さらにレーザー・トレラー徴候と言うサインがあります。老人性イボが体にたくさんできて痒くなります。胃がんが見つかります。また、首筋や脇の下、股が黒くなるサイン(黒色表皮腫)でも胃癌がみつかります。進行癌でも治療が進歩しているので落胆することはありません。皮膚筋炎という膠原病は顔や手が赤くなったり、腫れたりする病気ですが、肺癌、胃癌や乳癌が発見されることもあります。
肝臓疾患では黄疸(おうだん)といって、皮膚が黄色くなったり、痒くなります。ビリルビンや胆汁酸による症状です。女性ホルモンは肝臓で代謝されるので、肝臓が悪くなるとエストロゲンが過剰になり、男性でも胸が大きくなったり(女性化乳房)、血管が浮き出たりします(毛細血管拡張)。慢性腎臓病、とくに透析をうけている人の皮膚はドライスキンの傾向をしめし、かゆみが出ます。治りにくく、かゆみが激しいのが特徴です。ちなみにかゆみや蕁麻疹は、精神的ストレスが原因になっていることもあります。
糖尿病には沢山の皮膚のサインがあります。糖尿病発見のきっかけになったり、コントロール不良の危険サインとなります。いわゆる「おでき」(膿瘍)はバイキンにより、皮膚が化膿するものですが、糖尿病の悪化した状態では重症化します。水虫の感染から足が腐ることもあり、糖尿病性壊疽と呼ばれます。足を大事にして、良く洗うことが重要です。これらの感染症以外にも糖尿病では皮膚が乾燥したり、かゆくなったり、硬くなったり(糖尿病性浮腫性硬化症)、ぽつぽつができたり(痒疹)、いろいろな皮膚症状が現れます。
このように皮膚は外からの刺激で反応するだけでなく、体調や全身疾患を表す鏡と言えます。皮膚は雄弁に体調や心の状態を語ります。

 

最後に上手な皮膚科のかかりかたー皮膚科医からのお願い10か条を掲げます。普段から皮膚病は皮膚科に気軽に相談する心がけが大事といえましょう。

①比較的空いている曜日と時間帯の混雑状況を確認する
②和服を着ていかない
③診察前に化粧を落とす
④ガムや飴など口に物を入れながら診察をうけない
⑤診てほしいところはすべて、率直に話す(何か所ありますと最初に言って下さい)
⑥しっかりとみせる・・・出し惜しみしない
⑦出がけに市販の軟膏や消毒薬を塗って受診しない
⑧他人の軟膏や湿布を使用しない
⑨老人性といわれても昔からの病名なのでがっかりしない
⑩単なる水虫やたむしと思っても全身病の可能性もあるので迷わず相談する

スキンケア製品の展示と説明

講演の合間の休憩時間には協賛企業のスタッフからスキンケア製品の展示と説明があり、来場者の方は熱心に聞き入っていました。また、業者の方にとっても一般の方と話をする機会が持てて大変有意義だったとのことです。
また、講演後にはスキンケア製品の豪華なお土産をお持ち帰りいただきました。

来場者の皆様も満足して帰途につかれました。
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